“言葉は力なり”というのは事実です。“寸鉄(すんてつ)人を刺す”という格言もあることですし、いじめの多くは言葉から始まります。言葉の力をいかに善用するかは大変難しいようです。
当院は入院患者さんには退院の時に必ずアンケートをお願いしており、そのご意見のおかげで、職員は多くの反省をしています。そのアンケートによれば患者さんは当院の助産婦、看護婦が親切で優しく、なんでも相談にのってくれる、と回答して下さいます。大変ありがたいことですが、でもこの4年間には患者さんに2、3、言葉掛けが悪かったために不快な思いやプレッシャーをかけた場合があったようです(我々は知らないだけで、もっともっとあるのかも知れませんが…)。その内の一例を挙げますと大きい注射をされた時「痛い!」と言ったところ、「痛いんですか」と言われて大変腹が立ったというのがありました。その看護婦がどんな気持ち(または言葉の抑揚)で「痛いんですか」と言ったのか分かりませんが、やはり「済みません、この注射は痛いんです。すぐ終わりますから」と一言あやまり、一言説明し、一言あとどうなるかを話してあげれば決して腹を立てさせることはなかったのではないかと思われます。
これと同じような事は私自身にも経験がありました。何年か前の事、2泊3日の人間ドックにおいて鼻から内視鏡を突っ込み鼻腔を検査された時、えずいて止まらない。すると若い医者が「我慢できないんですか」と言ったのです。これにはもっとむかつきました。六十前の男が我慢しないわけがない。条件反射でどうにもならないからえずいていたのです。そこで私は悪態をついて、「お前なんかに見てもらうか」と怒って椅子を立って診察室を出て行きました。病気を治してもらうために行っていたのではないからこちらも強く出たのでした。
一方、私の知人の医者は胃カメラを入れるのが大変上手なので、彼に入れてもらうと全然痛くない上にえずきもしないという評判です。すると、あの医者は技術はまずい上に言葉の使い方も知らなかったのでしょう。技術を習熟するにはもっと月日がかかるとしても、言葉の掛け方なら即刻直すことができます。さて、医学の授業のの中に言葉掛けの講座がないのなら即刻設けるべきだと思われます。場合によっては言葉だけで病気が治ることだってあるように思えて仕方がないのです。
当院においては今後ともそういった認識のもとに医療機関としての役割、心得を職員一同充分に周知し、研鑽していきたいものと思っています。 |
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