生命の不思議についてはどなたもそれぞれに実体験がおありでしょう。草花や樹木、昆虫から陸、海の動物、そして人間まで、その姿や色あい、しぐさや生活様式など、生きとし生きるもの、生命の備わっているもの全てに宿る不思議に驚嘆したことのない人はいないと思います。
今回は魚の一種の、生命の不思議をお伝えします。随筆でもなければ、意見、発見でもありません。かってない驚嘆だったので誰かに話したくなっただけのことです。
この連休中、伊豆高原の帰り、美保の松原のそばの東海大学海洋科学博物館を見学しました。そこでの公開特別実習でその不思議を教えられたのです。
カリフォルニアの海岸にしかいない、グルニオンという15〜20cmくらいの、はぜによく似た魚は3〜9月、満月か新月の数日後の夜、ロサンゼルスの南部の砂浜に身をくねらせ、跳ねながら上がって来て、雌は下半身を砂の中に埋めて産卵する。すると雄たちは競って、雌の上半身の回りを跳ねながら射精する。そして海の方にまた身をくねらせ、はねながら戻って行くのです。(ここまではビデオ。)
さて、私の座った机の上に運ばれた直径7cm程のビーカーの中には一つまみの砂があり、よく見ると直径1mm程の透明な卵が2〜3個混じっていました。
教授が“この中に海水を入れますからよく観察して下さい”と言う。そして助手がビーカーに
1/3程の海水を注ぎました。すると見る見る内にその卵が孵化し1cm程の体で泳ぎ始めたのです。この間の速さに私はすっかり驚嘆しました。多くの生物は孵化をしますが、ある刺激(化学作用=この場合は海水)を与えると、1、2分の内に生体になるなんてそんな生物の存在を私はそれまで知りませんでした。その造化の不思議にすっかり恐れ入った次第です。
そうです。私たちに配られた砂はカリフォルニアから持って来たグルニオンの子持ち砂だった訳です。現地では砂に産れた卵は次の大潮(新月か満月)の夜、波をかぶって孵化し、1cmに足りない幼魚が海に戻って行くのです。
このことの学術的な説明は帰宅してから百科事典などで調べましたところ、「月周リズム」の明確な生物の一種と言うことでした。月の位相と関連した生命現象で、日本産イトメや、サンゴ、ウニ、イタヤガイなど、海岸の生物によく見られるとのことでした。(そういえば、4〜5月頃の新月か満月の夜、小浜の甲ケ崎の海岸にクサフグが産卵をしに寄り集っているのを見たことがあります)。諸書物には魚の孵化の条件について幾らかは触れていても、このグルニオンの孵化の早さについての記述は見つけることはできませんでした。多分、東海大学のこの先生のグループが実験室での孵化を発見し、成功させたのかも知れません。
ついでながら、書物によれば人間の排卵周期については月の位相との相関を、莫大な資料を基に世界で調査されているのですが、今もって明確な結論は出ていないとのことです。理由は人間は人口の光を用い、自然とかけ離れた生活をしたため、ではないかとありました。 |
|