もう、10年ほども前の話ですが、私がアメリカ人の青年と日本の女性との仲人をする段になって、アメリカからはるばる来られたご両親に“一人息子を日本にやってしまって寂しくないですか”と尋ねると、お母さんは“いいえ、息子が行った先でハッピーならば私達もハッピーです”と答えられたのにはすっかり感心しました。
以来、英語助手で学校に来る何人ものアメリカ人にこの類の質問をしましたが、決まって次のような回答が返って来ました。「親は子供が郷里に帰ってくれるのは大歓迎する。しかし郷里外(更に外国)に行くことも否定しない。但し、その場合は家、土地(大きな牧場でも)、財産は親の老後のために使い、余裕が無ければ子供には一切くれない。」
残念ながら、英語助手の中でもイギリス人やカナダ人にはこの手の質問をしなかったので、歴史の浅い、広い土地のアメリカ独特の考えかも知れないけれど、私はこの考えに完全に同調します。
中には初手から、子供は郷里から出て世界に羽ばたくべし、と進歩人ぶっておっしゃる方がいますが、いかがなものでしょう。先ず、郷里に帰って来ないか、と語りかけそれでも飛び出す子ならその子は自分の行為に責任を持つことになり、親を当てにしなくなる。それがよろしいんじゃないかと思います。
昨今、介護保険の話がかまびすしいのですが、それにかかる用語の中に、〈リバースモーゲージ〉と言うのがあります。高齢者が私有する不動産を担保に融資を受け、死後、それを処分してもらい養老、介護の費用に充てる制度です。子供に資産を残すよりも、自分の豊かな老後を希望する人にはピッタリの制度と言えそうです。
「子孫に美田を残さず」と言いますが、子供に過大な「不労所得」を残すことは良くないようです。近くの養老ホームでも世話どころか一度も見舞に来なかった子が、親の死後、遺産だけ貰いに来たという話をよく聞きました。そこで私も老後、どこかの施設に入る時には「リバースモーゲージでお願いね」と、楽な気持ちで申し出ることにしましょう。
もっとも、当地の不動産などは買手が付かず、2束3文に叩かれる、と言われるかも知れません。 あるいはご先祖様の土地をそんなに簡単に手放せるか、とお叱りを受けることでしょう。でも、あえて、先の考えが普及するほうが、これからの少子化した日本の若者の自己の確立にはずっといいような気がします。いや、若者のためよりも私の老後の確立にいいようです。そして、私は「子供たちが行った先でハッピーなら、私もハッピーです。」と答えることにしましょう。 |
|