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不妊症の治療

4) 体外受精-胚移植(IVF-ET)

体外受精-胚移植(IVF-ET)とは、奥さんの卵巣から卵子を取り出して培養液の中で精子と受精させ(体外受精)、受精卵を子宮の中に戻す(胚移植)ことを言います。

1978年にイギリスで第1号の試験管ベビーが誕生して以来、世界中に広まり、わが国でも不妊治療の一つとして行われるようになりました。

*体外受精のしくみ
IVF-ETは、採卵→媒精→受精→卵分割→胚移植→着床のステップが全てうまくいってはじめて妊娠が成立します。

体外受精-胚移植における卵巣刺激法

体外受精-胚移植では自然周期あるいはクロミフェンを内服する方法とHMGを用いて卵巣刺激を行う方法があります。

a) 自然周期あるいはクロミフェンを用いた方法
卵巣刺激を用いて治療を行った場合、その副作用として多胎妊娠、卵巣過剰刺激症候群、卵巣腫瘍発生の危険性などが問題になってきました。そのため体外受精-胚移植法を再び自然周期で行うことが一部の施設から提唱され、自然周期あるいはクロミフェンを用いた方法が行われています。

b)刺激周期による方法(GnRHa-HMG-HCG療法)
卵巣刺激を用いる方法として現在、併用されているGnRHa(スプレキュアー、ナサニール)は本来子宮内膜症の治療に用いられる薬です。

この薬剤を投与するとLH、FSHというホルモンが抑えられることにより排卵が抑制されます。そのため、GnRHaをHMG製剤と併用することにより、自然排卵を抑えながら卵子の発育を調整することが可能です。

GnRHaの使用法には前周期の黄体期(高温相)中期から使用するLong法と月経開始直後より使用するShort法の2種類があります。

卵巣機能が正常の場合はLong法を、年齢が高かったり卵巣機能が低下してあまり多くの卵子が採取できない場合はShort法を用います(人により色々とことなります)。

HMG製剤は月経第3日から開始します。HMG製剤には下垂体から分泌されるFSHおよびLHというホルモンが含まれていますが、FSHとLHが等量あるいは3:1位の割合で含まれているものをHMG製剤、FSHを多く含むものをFSH製剤と呼びます。HMGとFSHは卵巣の反応により使い分けますが、HMG製剤は24時間で効力が低下するため連日注射を続ける必要があります。

HMG注射量は、1日およそ150単位ですが卵巣の反応性により増減します。

月経8~9日ごろから経膣超音波法により卵巣内で発育する卵胞の数およびその卵胞径を計測すると共に血液中の卵胞ホルモン(エストロゲン)を測定します。卵胞が直径16~18mmに発育し、卵胞1個あたりの血中エストロゲン値が200pgに達した時点でHCGというホルモンを投与します。例えば、卵胞数が6個の場合エストロゲン値はおよそ1200~1500になります。

HCGは下垂体から放出されるLHホルモンの作用を持ち、卵子の最終的な成熟を促すと共にHCG投与後36時間で排卵が起こります。そのため排卵直前、すなわちHCG投与後34~35時間後に卵子を採取します。

(1)採卵と卵子の確認
卵子は卵巣の表面にある卵胞という袋の中にあって、卵胞の内壁にくっついて成熟しますが、排卵直前になると壁からはがれてきます。この時点で経膣超音波を用いて長い注射針を刺入し卵胞液と共に卵子を吸引します。

吸引された卵胞液を顕微鏡下で確認し、卵子を探します。卵子は直径約0.1mmと小さいため肉眼では確認できませんが顕微鏡を用いれば容易に確認できます。顕微鏡で卵子を観察することにより卵子が充分成熟しているかを判定し、それに基づいて精子をふりかける(媒精)までの時間を決定します。

卵子の培養は37℃に保たれて、炭酸ガスを5%、窒素を4%含んだ気層の孵卵機内で行います。

精子は次に述べるような調整法によって準備、調整した後、適当数を卵子の入っている培養液に滴下します。

(2)採精と精子の調整法
精液中には精しょうという液体成分が含まれており、精しょうは精子を保護する働きをします。そのため射精された精子は普通の温度で数時間元気に生きています。精子は自宅で採取して3時間以内に持ってきて下さい。

精子は3~5日かかって精巣上体内で成熟しますので、採精前には3~5日の禁欲をして下さい。

採取された精液には精しょうや他の分泌液、雑菌、白血球などが含まれているので、これを除去するのに数回洗浄します。

この精子を、一個の卵子あたり5~10万/ml添加(媒精)します。

(3)受精の確認と胚発育

精子が卵細胞質に侵入し、核(前核)を形成した状態を受精といいます。媒精翌日に卵子を観察すると受精した卵では卵子内に卵子、精子由来の前核、二つの極体が認められます。

受精確認後の卵子を胚と呼びます。つまり受精卵と胚は同じ意味です。

受精卵に認める二つの前核は次第に近づき、融合します。この状態を接合子といいます。接合子はその後分割を始め、翌日には2~6分割胚となります。

(4)胚移植
胚移植は通常採卵の2日後に行います。この時点の良好な胚の判断は
①分割が進んでいる。
②卵細胞の一つ一つが均一で張りがある。
③Fragmentと呼ばれる小球を認めない。
などの点から選別します。ただしこの時点の判断が常に正確ということではなく、移植に不適当と判断された胚を数日培養すると非常に良い発育を示したり、あまり良好とはいえない胚を戻しても、妊娠、分娩に至ることがあります。

移植する胚の数は少なければ妊娠率が下がりますし、多すぎれば多胎妊娠が増加します。そこで、国や州によって移植胚数を規定しているところが多く、日本では日本産婦人科学会のガイドラインにより移植胚数は3つまでと規定されています。そのため3個以内で良好と思える胚を選択し移植します。

移植は細いカテーテルを子宮頸管部から子宮内に挿入し、人工授精と同様な方法で行います。胚移植は痛みを伴いませんので麻酔は用いません。胚移植後は、4時間以上安静にしていただきます。

(5)移植後の治療と妊娠の判定
胚移植後は激しい運動など無理をしなければ、仕事を含めて通常通りの生活をして差し支えありません。ただし卵巣の腫大や卵巣過剰刺激症候群の可能性があれば安静が必要です。

移植後には黄体補充療法として黄体ホルモンの内服あるいは注射を行います。その理由は卵巣刺激をした場合に排卵後も卵巣ホルモン(エストロゲン)が高くなるため、それに比例した黄体ホルモン(プロゲステロン)量を維持する必要があるからです。とくにGnRHaを用いた場合、LH(黄体刺激ホルモン)の分泌が抑えられるため、充分な補充が必要となります。

黄体補充療法としてHCGを用いることもありますが、その場合卵巣過剰刺激症候群を悪化させることがありますので注意が必要です。

また投与後1週間位は尿妊娠反応が陽性を示すことがあります。

胚移植後2週間で尿あるいは血中HCGを測定し、陽性であればこの日が妊娠第4週1日となります。

*多胎妊娠について

日本では、自然妊娠における多胎の発生頻度は、双胎、品胎、四胎、五胎、はそれぞれ120、1202、1203、1204回の分娩に1回とみなされておりますが、体外受精においてはその倍以上の頻度(10~20%)で見られます。

現在では、子宮に戻す胚の数は基本的には1つまでと決まっております。

*副作用について

薬や注射により、頭痛や肩こりなど訴える人もおられますが、一般に軽いものです。

採卵時、非常に稀ですが、腹腔内出血などの合併症により開腹手術を必要とする場合もあります。

また、卵胞吸引の際に注意深く行っていても感染を起こす場合もあります。

排卵誘発剤による卵巣刺激のため、ときに卵巣が腫れ、腹部の膨満感、体重増加、吐き気などの症状が起こります。卵巣過剰刺激症候群といい、10~15%の程度で特に卵がたくさん(10~15個以上)採れた場合に起こります。稀に非常に重篤な症状となり、腹水が溜まり、入院が必要となる場合もあります。

★一言

OHSSのおこりやすい人とおこりにくい人がおられます。

・顕微受精について

普通の体外受精では、精子は自分の力で卵子の中に入っていきますが、精子にその力(受精能力)がない場合、顕微鏡下で直接精子を卵子の中へ入れてやります。

これが顕微受精です。顕微受精には3つの方法がありますが、現在ではその中で最も受精率の高い卵細胞質内精子注入法(ICSI)が主流となっています。

この方法を用いることにより、乏精子症や精子無力症の方だけでなく、無精子症、無精液症の方でも、精巣より精子を採取可能であればその精子を用いて受精が可能となりました。

また、精液検査で数、運動率に異常がないにもかかわらず、普通の体外受精では受精しない受精障害のある方に対しても顕微受精が施行されます。

この他、重度の乏精子症の場合、卵の凍結をしておいて、その度ごとにICSIを施行する場合もあります。

 

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